「三日月」

画像






  三日月

地質学者の子供にあれば巡検に付き来たりけり捕虫網持ち

またたびの熟れ実は舌に甘し辛しにやーごと言ひてふたつ食べたり

断層露頭見学中止となりにけりキイロスズメバチ生息すれば

道の駅「あらエッサ」には柳川風どぜう鍋あり安来市なるも

少女なりますぐな髪を耳にかけラーメンをすする真面目な顔で

風がきて軒にさがりし蜘蛛の巣も蜘蛛も小虫も消えてしまひぬ

三十年余りを暮らす家であるもはや我が家といふべきである

表情筋ことに口角の歪むとき批判をせむとするとき人が

ぬかるみを歩くとおもふ日日に三日月うすく透きとほりたり

もういいよひとつ許してあげるからひとつ許してそしてお仕舞ひ

夕方に散歩をすれば黒柴としりあひになる遠慮はあるが




     ずいぶんと久しぶりの記事です。

     冬は、閉じてしまう。







短歌人1月号より その4 会員1

画像







フッフッとひとり笑ひのあふれてはまづ一頭の鹿と出会へり     藤島朋代

   一読、つられてわたしもフッフッと笑ひそうになる。
   嬉しいこと、楽しいことを考えてると、面白いこと、楽しいことにまた出会へるかもしれない。
   律も、文脈も独自で好きだ。


縁側を直すと決断する夫は前を見ており八十歳の暮れ     高木律子
                        八十歳;はちじゅう
   八十歳にして縁側をリフォームすると決断した夫です。
   妻はそれを、前を見ており、と表現した。
   妻が夫を信頼しているからこそ、出た言葉でせう。


目玉焼きの黄味を潰して食べる朝ひとりぼっちが嫌いではない     芦田一子

   ひとりぼつちが嫌いではない。
   嫌いではないけれど、はつかなる孤独も忍び込んでゐる。


古典的なそのネーミング潔し「立憲民主党」われは入れねど     黑田英雄
     古典的;クラシカル
   結句「われは入れねど」が肝なり。


細き男ビールの壜にうつりたりうつりてなおもほそりてゆけり     北岡晃

   壜、以降のひらがなの連なりで、ビール壜にうつるほそき男の影がゆらめいて見えてくる。
   シュールだ。





短歌人1月号より その3 会員1

画像







嘘ひとつ吐いて帰りしざらつきの舌もて舐めるヨーグルトの蓋     高井忠明

   言い難いはつかなる不快感が、ヨーグルトの蓋の舌触りや味から、呼び出される。


父親がどんと叩けば立ち直る家族のテレビ居間にありけり     田端洋子

   昭和だ、テレビも父親も。


茹ですぎでも昭和の味なりスパゲッティ・ナポリタン食む四谷のバーに     柊慧

   昭和をもうひとつ。
   四谷のバー、という場所が味付け。


八十路には八十路の色のありと知る娘あり孫あり夫生きてある     中田公子

   八十路となりても、新しい発見があること、寿ぎたし。


秋空に血潮吹くべし裏路地のからすうり皆頭蓋の形     高良俊礼

   ぴしやりと決めた。


一足ごとに川を跳び池をさけて大雨のアスファルト舗装をしばらく歩きぬ     来宮有人

   定型から大きくはみだしてしまつてゐるんだけれど、足元に集中して、
   みずたまりをさけながら歩いてゐる感じが伝わる。
   結句は、歩く、と、現在形では如何。